【雪崩講習】日本雪崩ネットワークのベーシック・セイフティキャンプに参加してきた話

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昨シーズン行きたかったけど行けなかったベーシック・セイフティキャンプ(BSC)に、2020年1月25日・26日の2日間、やっと参加してきました。

当初はそれだけの為に長野は大町まで行く予定だったんですが、せっかく白馬エリアまで行くのなら、山にも行きたい。
で、せっかく白馬エリアに宿泊するのなら、前々から気になっていた宿にも泊まってみたい!と思いまして、全部入りでやってきた次第。

とりあえず今回は、ベーシック・セイフティキャンプのお話です。

ベーシック・セイフティキャンプとは

日本雪崩ネットワークという雪崩専門団体がやっている、雪山登山経験者・滑走者(BC)向けの雪崩講習会(机上・実技)です。

雪崩安全対策に係る包括的な内容をカバーした2日間の基礎講習会です。実際にフィールドを移動しながら雪崩地形の識別やグループマネジメントの方法、不安定な積雪状態の把握、そして捜索救助の訓練などを行います。

(日本雪崩ネットワーク公式サイトより)

基本的には日本雪崩ネットワークが主催していますが、長野県山岳総合センター等 他団体との共催バージョンもあります。
内容は同じですが、1,500円で山岳総合センターに宿泊することができるので、わたしは長野県山岳総合センター共催のものを選びました。

なお、ベーシック・セイフティキャンプ受講済 かつ 十分な経験を持つ人向けに、より上級の「アドバンス・セイフティキャンプ(ASC)」という全5日間の講習も存在します。
が、この記事で書いているのはあくまでもベーシック・セイフティキャンプの方です。(以下 セイフティキャンプ)

詳しくはこちら↓
日本雪崩ネットワーク ベーシック・セイフティキャンプ
https://nadare.jp/seminars-training/basic_safetycamp/

セイフティキャンプに参加しようと思った理由

基本的にソロで登山をしてきて、わからないことは書籍やWEBで調べたり、登山ショップの店員さんに聞いたり、講習に参加したりしながら、初のアルプステント泊登山で知り合った友人たち(わたしにとっては山の先輩!)に連れられて5年前に雪山デビュー。
幸いなことに、これまで特に問題なく雪山を歩いてきましたが、どこか漠然とした心許なさを感じていました。

雪山を始めたシーズンに購入した道具は、雪山を歩くのに必要な12本爪アイゼン・ピッケル・オーバーグローブ・ハードシェル・バラクラバ など。
しばらくはその友人たちと山に行ってたんですが、それも次第に疎遠になり、再びソロで登るようになると、ひたひたと忍び寄る心許なさ。

そこから雪山登山講座を改めて受講したりしていましたが、中でも雪崩講習は数も少なく、昨シーズンは思い立つのが遅すぎて、めぼしい講習は満員御礼。
今シーズンは募集開始早々に申し込み、無事参加してきた!というわけです。
(2020年2月3日時点で、まだ3月の講習は申し込みが可能そう?)

準備しておくもの

事前に指示のあった持ち物リスト。
要項とは別に、「ワカンまたはスノーシュー」の追加連絡がありました。

▼セイフティキャンプwith長野県山岳総合センター 要項
https://www.sangakusogocenter.com/koza_tozan/yoko/2017SC.pdf

  • ピッケル
  • アイゼン
  • ワカンまたはスノーシュー
  • 雪崩ビーコン
  • プローブ(240~300cm程度のもの)
  • スノーショベル
  • スノーソー
  • テキスト (増補改訂版『雪崩リスク軽減の手引き』発行:東京新聞)
  • ザック(35~50リットル程度)
  • アウターシェル・オーバーパンツ
  • 冬山ウェア一式(アンダーウェア上下 中間着など)
  • ソックス(予備も必要)
  • 手袋(冬用)
  • 帽子・目出帽
  • 防寒着
  • テルモス
  • 1日目 昼食 ・ 2日目 行動食
  • ヘッドランプ(予備電池も)
  • ゴーグル/サングラス
  • 雪焼け止め
  • その他(筆記具、持病薬、保険証、着替え等)

受講するにあたり、わたしが新たに購入したのは「雪崩ビーコン」「プローブ」「ショベル」「スノーソー」「テキスト」の5点。

ビーコン

ただでさえ何を選んでも高いビーコンですが、ここは歯を食いしばって、評価の高い MAMMUTの BARRYVOX S (バリーボックス エス/¥64,900)を買いました。
のちに講習の中でこの選択が大正解だったことを知るわけですが、何がすごかったって捜索の早さ。
MAMMUTが謳っている「捜索帯域幅70メートル」、これが実際にビーコン捜索をやってみたら、エグい程の他メーカーとの歴然の差……。
捜索される側は比較的どのメーカーのでもいいのかな?という印象ですが、捜索する側は BARRYVOX S がおすすめです。
ホントに捜索対象との距離60m台から安定して捜索対象を示してくれるので(カタログ値は70mですが、実際に捜索する時は小走りなので画面に表示されるのは60m~という印象)、他社ビーコンより圧倒的に早く正確に遭難者を見つけることができました。
64,900円。



プローブ

MSR の Striker 240 (ストライカー240)。
特に拘りはなく、ショップで取り扱いがあったものを買いました。
積雪量やクラストの深さ等を測ったりする目盛りがあるのが便利。というか、割とどれでも目盛りはついてるのでは……?
袋付き。8,800円。
https://www.e-mot.co.jp/msr/product.asp?id=415

スノーショベル(スコップ)

調べた感じ、MSR のオペレーターDショベルがよさそうだったのでこれにしました。
探すときの条件は

  • 金属製
  • ブレードがフラット
  • ザックに収納したいので軽量&コンパクトになる

の3つ。
あとは、ハンドル部がD型の方が力が入れやすいという話を聞き、オペレーターTショベルではなく、オペレーターDショベルを選択。
D型ハンドルは嵩張るかな?とも思いましたが、実際にパッキングしてみると、ブレードに比べれば大して気になるほどでもありません。
10,450円。
https://www.e-mot.co.jp/msr/product.asp?id=412

スノーソー

これも割となんでもいいような気もしますが、雪も氷もサクサク切れるという謳い文句に惹かれてモチヅキのスノーソーにしました。
他がどうなのかは分かりませんが、サックサクに切れました!これは楽しい!
木製の柄付き・ケース付きで7,700円。
https://www.e-mot.co.jp/naturalspirit/product.asp?id=448

テキスト (増補改訂版『雪崩リスク軽減の手引き』発行:東京新聞)

改訂前のを間違って買わないように要注意。
1,870円。
https://www.amazon.co.jp/dp/4808310252/ref=cm_sw_r_cp_api_i_tkUnEbH0ZRSCJ

かかった費用

項目名 金額 コメント
講習費用 ¥25,000 受付時に現金支払い
山岳総合センター宿泊費 ¥1,500 受付時に現金支払い
1日目昼食 ¥390 パン2個とスープ
コーヒー ¥200 山岳総合センターで販売。ドリップバッグが@50
1日目温泉 ¥700 ゆ〜ぷる木崎湖
1日目夕食 ¥0 ヒマラヤンシェルパ。ご馳走になってしまった
2日目朝食 ¥100 手持ちのカレーメシ+コンビニコーヒー
栂池高原ゴンドラ往復券 ¥2,700 滑走コースの方は別途栂池ロープウェイ分も必要(回数券買って分配してました)
2日目行動食 ¥230 パン2個
新宿からの高速バス ¥10,600 片道は新宿→白馬八方
合計 ¥41,420   

会場間の移動にあたり、「バスで来た人は車の人に同乗させてもらってください」という指示がありました。
で、たまたま居合わせた方に相乗りさせてもらっておきながらガソリン代すら払ってない……どころか、「夕飯行きます?」のお言葉に甘えてご一緒させていただき、「もう食べられない!」ってくらい食べたのに、それすらご馳走になってしまった……

大町にある「ヒマラヤン シェルパ」での夕餉の一部↓
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ヒマラヤン シェルパ 大町店、おすすめです。
https://tabelog.com/nagano/A2005/A200502/20011762/

どんな人が来ているのか

滑走者1チーム、登山者2チームに別れていたので、今回は登山者の方が多かったみたいです。
登山者は、参加者の中で恐らくビーコン類の習熟レベル等によってチーム分けされたんじゃないかな?と思います。

グループでスノーシューハイキングしかしたことない!って感じの方から、ガチアルパイン系もやってるし過去にリーダー講習も受けてるぜって感じの方まで、色々でした。

年齢層も、2〜30代から5〜60代くらい?のお父さんお母さん世代まで様々。
30〜40代くらいがボリュームゾーンでしょうか。

男女比はよくわかりませんでしたが、全体で半々くらい?かな?(曖昧)
滑走者チームは男性が多く、登山者チームは女性が多い印象でした。

参加要件を充たしていれば、あまり気にすることもなさそうです。

長野県山岳総合センターの宿泊利用

※ 山岳総合センター共催ではない、日本雪崩ネットワーク主催の講習に参加する場合は、山岳総合センターに宿泊することはできません。各自で宿を手配する必要があります。
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山小屋に素泊まりするイメージでだいたい合ってますが、山小屋よりちょっと豪華。
部屋は8人部屋で、2段ベッドになっていますが、今回は全員下のベッドが使えました。

ベッドはカーテンで仕切られているので、着替えも安心。
各ベッドに照明があり、その側面にはコンセントまであります!素晴らしい〜!
布団やシーツのセッティング・片付けはルールに則って自分でやります。
ゴミは持ち帰り。
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各部屋に暖房があって、ポットのお湯と電子レンジと冷蔵庫が使い放題!
食堂で自炊も可能。
ポットの横ではコーヒーのドリップバッグやティーバッグや各種インスタントドリンクが1杯分50円で販売されてるので、講習中喉が渇いても安心。
無線LANあり。(使ってないので速度等は不明)

これで1泊1,500円は安い!

セイフティキャンプに参加するときの交通手段

マイカーでもレンタカーでもいいので、可能ならとにかく車をオススメします。
わたしは新宿と信濃大町/白馬八方(ついでに八方尾根歩いたので)を高速バスで往復し、現地の移動は電車とバス……と思っていたのですが、実際は人様の車に乗せていただいてばかりでした。


セイフティキャンプに参加して学ぶこと

セイフティキャンプに参加する数日前、実は日本雪崩ネットワークが登山ショップで実施している「ミニアバランチナイト」に参加していました。

ミニアバランチナイトは、

アバランチナイトの姉妹版です。JANのプロフェッショナルメンバーあるいはアクティブメンバーが、ショップやメーカーなどの協力を得て、各地で開催しています。これから雪山を始めようと考えている方やスキー場内で新雪滑走を楽しんでいる方などを主な対象としています。「スキー場と雪山の違い」「雪崩の基礎」「雪崩対策装備」などについて、90分ほどでやさしくお話します。

……というものです。(日本雪崩ネットワーク公式サイトより)

かなりどうでもいい話ではありますが、セイフティキャンプの数日前に、都内でミニアバランチナイトにも参加していまして。
そのときの講師の方がセイフティキャンプの講師陣の中にいらっしゃって、
「ricoさん、どこかでお会いしませんでした……?」
って聞かれたのがこの日の個人的ハイライトでした。
(ミニアバランチナイトの日は会話してません)

で、セイフティキャンプの講義もミニアバランチナイトの内容と一部被りますが、より深く、具体的・実践的な内容になっています。

1日目 講義・グループディスカッション(山岳総合センター)

  • 雪崩の基礎(雪崩の種類・メカニズム)
  • 雪崩地形
  • 雪崩のリスクの判定
  • 雪崩リスクの高い場所での行動
  • 雪崩に遭ったときの行動
  • ビーコン使用時の装備の注意点(アルミパウチ・スマホ・カメラの干渉)

etc...
ただ講義を聞くだけではなく、グループワーク等もあり。
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朝9時頃、受付して席に着いたら、全員の簡単な自己紹介を経て講義スタートです。

ミニアバランチナイトでの濃い講義が、そのままの濃さで時間が長くなったとでも申しましょうか。
濃い。
ボーッとしてる暇なんてない。
ボーッとしてる暇なんてないのに、午後になって襲ってくる抗い難い眠気が辛かった……(コーヒーで応戦した)

1日目 フィールドワーク(登山チーム1は山岳総合センター前の原っぱにて)

  • ビーコン・プローブの使い方
  • ビーコンを使用した捜索練習

まさかの積雪ゼロ。
冬将軍、正気か……。
原っぱでビーコンを枯葉で埋めたりしながらビーコン捜索練習。

2日目 フィールドワーク(登山チーム1は栂ノ森〜栂池平間)

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  • 雪崩地形の識別
  • グループマネジメント
  • 雪崩ハザード評価の為のデータ記録(場所・標高・気温・天気・風・降水・飛雪・積雪構造・フットペン・硬度)
  • ピットチェック(バープテスト・コンプレッションテスト)
  • 雪崩捜索実践(ビーコンを持っている人4人・持っていない人1人 被害者計5人の想定での捜索)

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朝8時、ゴンドラの往復券を購入した状態で集合(滑走チームはより上まで行くのでロープウェイも)
昨日講義で教わったことを早速フル活用しながらの実践編です。

ゴンドラトップに着いたら身支度を済ませます。
で、日本雪崩ネットワークの雪崩情報ページに観察記録が載ってますが、あの記載法に則って情報を記録していきます。

ピットチェックポイントまでの移動は、チームで1列になり、代わる代わるリーダーを務めながら、メンバーを安全に移動させます。
「最初にリーダーやった方が気楽ですよー!」の言葉につられて勢いよく手を挙げるわたし。
より雪崩リスクの少ないルート・移動方法を選択しつつ、講師の方から指導を受けつつ、みんなに声をかけながら歩きます。

ピットチェックポイントに着いたら、講師の方々がお手本を掘ってる間に、生徒は小休止を兼ねてトイレや食事をぱぱっと済ませ、いざ積雪観察。

その後、わたし達がピットチェックで盛り上がってる隙に雪に埋められたビーコン4つと、ビーコンを持っていない設定の1人の捜索実習。
生存タイムリミット内の発掘を目指します。

いざ制限時間付きでビーコン捜索するとなると、頭ではわかっていても焦ってしまってできないこともありました。
さんざん叩き込まれたはずの
「ビーコンでどんなに『ここだ!』と思っても、必ずプローブを使って確実に場所を特定すること。5cmズレただけで掘り出せずに時間を無駄にする」
というのが頭からすっ飛び、間違いなく近くにあるのになかなか見つけられないビーコン……。

それだけではなく、今何人中何人見つかっているのか等の情報連携、誰が何をするべきかの指示系統等、やってみて改めて浮き彫りになる課題たち。

これは実際にやってみないと身につかないし、一度やればいいというものじゃないなと実感しました……。

2日目 講義・グループディスカッション(白馬村ウィング21)

  • フィールドワークまとめ
  • 雪崩ハザード評価

栂池高原スキー場から、白馬駅近くの「ウィング21」という施設に移動して最後の座学。
本日の行動を振り返りつつ、自分たちが集めた情報を元に、各チームで雪崩ハザード評価をまとめて発表します。

セイフティキャンプに参加した感想・変化など

とにかく講義もフィールドワークも密度が濃い!!
集中して学ぶ機会が少なくなっているわたしの脳はフル回転で、頭がヘロッヘロになりました……。

とはいえ、座学で学んでから間髪入れずに実際に体を動かして、実際の雪山でやってみるフィールドワークは、山岳会等に所属していないわたしのような人には、とても貴重な体験でした。
くどいようだけど、やってみなければわからない課題や、より安全に雪山を歩く為にどう動かばいいのか等、新たな発見がたくさんありました。

まだ頭が飽和状態で消化しきれていないので、テキストを読み返して頭を整理しつつ、実践したことを早く復習したい!

最後に

雪崩に遭う可能性はとても低いと思いますし、雪崩に遭ったときの練習をするよりは、きっと雪崩に遭わないことの方が重要です。
雪崩リスクの高いエリアに入る人は、登山者よりもBC滑走者の方が多いような気がします。(気がするだけでエビデンスはない)

でも、過去約30年の中で、雪崩死者が一番多いのは登山者だそうです。
雪崩に遭った人はBC滑走者の方が多そうなものなのに、亡くなる人は登山者の方が多いというのは、ビーコンの携行率の差なんじゃないか?という気もしました。
(滑走者チームの方から「登山の人ってビーコン持ってない人多いの?なんで?」って聞かれたりもした)

実際に、講師の方の1人は、「こんなところで雪崩に遭う??」と思うような場所で雪崩に巻き込まれ(偶然そのときGoProで動画を撮っていらっしゃり、その映像を見せていただきました)その後 わたしたちの目の前で講義をしてくださっています。
つまり、「遭ったが最後、重篤な事態に陥りやすい」と言われる雪崩から生還しているってことですよね。


捜索練習を雪山でやった後、参加者同士で話してた会話で、印象に残っているものがあります。

「実際に雪崩捜索するとなったら、こりゃほんと申し訳ないけどビーコン持ってる人が優先だな。
 持ってない人を僅かな手がかりで捜すより、持ってる人を捜す方が、ずっと助けられる可能性が高い」